「21世紀アメリカの喜劇人」追記<後編>

「21世紀アメリカの喜劇人」第2章と第3章補足の後編(前編はこちら)。

今回は若手中心の編成になって新時代へと突入した今期のSNLメンバーを在籍期間順に紹介するとともに、今期の活躍を勝手に査定してみたい。なおhuluで字幕放送があった前期と違って、字幕無しの絶望的な状況で視聴した感想であることを付け加えておく。


 キーナン・トンプソン

1978年アトランタ生まれ。元々子役でニコロ・オデオンの子ども向けコメディに出演する傍ら、『マイティ・ダックス』シリーズなどに出演。2003年にSNL入り。得意キャラはスティーヴ・ハーヴェイ、チャールズ・バークレイ、リック・ロスなど。 毎回、大オチ担当からモブキャラまでフル稼働している番組の大黒柱。長いキャリアに裏打ちされたパフォーマンスの安定感はピカイチ。在籍期間が10年を超えているので、来期あたりで卒業するんだろうけど、この人がいない状況はまだ考えづらい。

ベスト・パフォーマンス:南アフリカの適当な手話通訳


 ボビー・モイナハン

1977年ニューヨーク生まれ。コネチカット大で演劇を学びアップライト・シチズン・ブリゲイトで活躍。2008年にSNL入りを果たした。得意キャラはうろ覚えでニュースを解説する人(ギャグ構造はナイツのヤホー漫才に似てる)など。キーナンと並び毎回至るところに登場するバイ・プレイヤー。上品なルックスが多い現キャストの中で唯一ホワイト・トラッシュを演じられるという意味でも貴重な存在だ。 

ベスト・パフォーマンス 「Weekend Update」の酔いどれオジさん


今期入った新人にキーナンやボビーのような”ヨゴレ役”が出来る人がいなかったので、二人の負荷はとても高かった。でも頑張ったと思う。 


ナシム・ペトラード

番組史上初(且つ唯一)のイスラム圏出身(1981年イランのテヘラン生まれのLA育ち)。UCLA卒業後、グラウンドリングスでの活動を経て2009年にSNL入り。得意キャラはアリアナ・ハフィントンや子ども全般。大オチを任されることもあり、それなりに活躍していると言えるのだが、在籍期間中ずっと怪物クリステン・ウィグがいたため、ちょっと伸び悩んだ気がする。今期を最後にSNLの元ライター、ジョン・ムレイニーがFOXで立ち上げたコメディ・ドラマ「ムレイニー」にレギュラー出演するためおそらく卒業する予定。 

ベスト・パフォーマンス 「Kimye Talk Show」(カニエ・ウエストとキム・カーダシアンが司会という設定の架空のトークショー番組)のキム・カーダシアン(実際の3倍くらいバカ!)


ヴァネッサ・ベイヤー

1981年オハイオ州生まれのユダヤ系。ペンシルヴァニア大在学卒業後にシカゴに移り、ImprovOlympic、Annoyance Theater、セカンド・シティといった劇団での修行を経て2010年にSNL入り。ヴァネッサもナシム同様、クリステン・ウィグの影に長い間いた人だけど、デキる後輩の追い上げに発奮したのか今期は頑張った。融通の効かないユダヤ系少年ジェイコブ(写真)は名物キャラに。というわけで彼女が一応、現在の女エース。

ベスト・パフォーマンス(セシリー・ストロングとのコンビ芸シリーズ) 一流ブランドのCMを勝手に作って売り込もうと企んでいる元ポルノ女優(すごくバカなので欧州ブランドの名前を発音出来ない)


タラン・キラム

1982年カリフォルニア生まれ。もともと子役で『裸の銃を持つ男 33 1/3』やニコロ・オデオンの子ども向けコメディに出演していた。SNLのライバル番組『MADtv』のレギュラーだったこともある。UCLA中退、グラウンドリングスでの修行を経て2010年にSNL入り。前期までは他のキャストがボケ倒している横で佇んでいるだけの中途ハンパなイケメンでしかなかったけど、今期は出演量が3倍くらいに増え、大オチも結構な割合で担当。”小ぎれいなウィル・フェレル”とでも呼びたいハイ・テンションな芸風で番組を引っ張った。というわけで彼が現在の男エース。ちなみに既婚者で、妻は『ママと恋に落ちるまで』や『アベンジャーズ』で知られる女優コビー・スマルダーズ。お笑いエリート夫婦だ!

ベスト・パフォーマンス 現代のモノ全般を激しく憎む評論家ジェバダイア・アトキンソン(写真)


 ジェイ・ファラオ

1987年ヴァージニア生まれ。15歳でスタンダップを始め2010年にSNL入り。得意キャラはカニエ・ウエスト、シャキール・オニールほか。オバマ大統領に扮して冒頭のスケッチの主役を務めることが多い。今期はライターにマイケル・チェ(後述)が在籍していたこともあって、人種差別ネタのスケッチをやる際にやたらイキイキしていたのが印象的だった。

ベスト・パフォーマンス 『28Reasons』(後述)


セシリー・ストロング

1984年イリノイ生まれ。カリアーツ卒。セカンド・シティやImprovOlympicで活動後、2012年にSNL入り。「パーティーで話しかけられたくない子(写真:解決不能な世界的な問題を、茫洋とした知識を振りかざしながら話しかけてくるウザい女子)」、元ポルノ女優コンビの片割れ(ヴァネッサ・ベイヤーとのコンビ)、エイディー・ブライアントとの「ガールフレンド・トークショー」(2人の女子高生がゲストの女子を迎えてお気に入りの物について語り合うウェブ番組という設定のスケッチ。エイディーがハブられるのがお約束。)などヒット作を多く生み、今期から「Weekend Update」のキャスターも務めるようになった。オチ担当が減ってしまったことが惜しまれるが出番は相変わらず多い。

ベスト・パフォーマンス ゲストのジミー・ファロンとのデュエットによる「外は寒いよ」(ジミーが帰ろうとするセシリーを引き止めセックスするが、今度はそばを離れようとするジミーにセシリーが「いつ私の親に会う?」とか語りかける……というミュージカル・スケッチ)


エイディー・ブライアント

1987年アリゾナ生まれ。シカゴのコロンビア・カレッジに進学し、ImprovOlympic、Annoyance Theater、セカンド・シティを経て2012年にSNL入り。前期は奥手な女子高生に扮した「ガールフレンド・トークショー」しか見せ場が無かったけど、今期はネタ作りに関与した「(Do It On My) Twin Bed」(後述)などヒット作を生み、存在感を大幅アップ。モノマネではアデル役が鉄板。

ベスト・パフォーマンス   ケイト・マキノンとの「Dyke and Fats(写真:文字通りタチとデブの女刑事を主人公にした刑事ドラマの偽予告編)」


ケイト・マキノン

現在のSNL女性キャストで一番才能があるのは彼女だと思う。1984年ニューヨーク生まれのコロンビア大学卒。レズビアンであることを公言している彼女は、アップライト・シチズン・ブリゲイトでの活動をしながら、2007年にケーブル局Logo製作の同性愛ネタ専門のコメディ・ショー「Big Gay Sketch Show」の放映開始とともにレギュラーに。「ヴァギナを熱望するゲイの少年」といったキャラでカルト人気を博した。2012年にSNL入り。エレン・デジェネレスやジョディ・フォスターといったいかにもなモノマネのほか、お婆さん役やジャスティン・ビーバー、ドイツのメルケル首相を怪演して番組を盛り上げた。

ベスト・パフォーマンス   ロシアの田舎の主婦(写真:悲惨な境遇にやたらと泣く)


セシリー、エイディー、ケイトはそれぞれまだ2年目なのに、ひとりひとりがエースを張れる才能の持ち主で、これほど女性キャストが充実していた時代は過去にもなかったのではと思うほど。女子キャストに関してSNLが心配する必要はしばらく無いはずだ。


「(Do It On My) Twin Bed」


クリスマス回で、女性キャスト全員とゲストのジミー・ファロンが披露したオリジナル曲。要するにクリスマスの夜に実家のベッドで彼氏とセックスする歌(米国ではボーイフレンドを実家のクリスマスに招く習慣がある)。現在の女子キャストの勢いを示したネタである。


一方、2013年秋に大量補強された男性キャストは課題を残すことになった。

マイク・オブライエン

現キャスト最年長の1976年生まれ。ミシガン大を経てシカゴのセカンド・シティに入団。2009年にライターとしてSNLに採用され、2013年からパフォーマーに転じた。知的でブラックな芸風で主にデジタル・ショート(ビデオ・ネタ)で個性を発揮。憑依キャラもいけそうなので来期は生コントでの活躍を期待したいのだがクビ説も……。ちなみにセシリー・ストロングと付き合っており、劇中でカップルを演じているのを見ると他人事ながら少し恥ずかしい。

ベスト・パフォーマンス   虫にインタビューする人


ジョン・ミルハイザー

やはり2013年にSNL入りした男。1981年ニュージャージー生まれ。ホフストラ大卒。ブルックリンを拠点とするお笑いユニット”シリアス・ランチ”で注目されたそうなのだが、今期はモブキャラばかりでオチ担当は一回も無し。次シーズンに出れるか心配である(SNLは新加入させたレギュラーのクビを1年で斬ることもしょっちゅうなのだ)。

ベスト・パフォーマンス なし


ベック・ベネット

やはり2013年加入組。1984年イリノイ州出身。進学したUSCでジェイソン・ライトマンも在籍していたお笑い研究会Commedus Interruptusに入団。ここで出会ったカイル・ムーニー、ニック・ラザフォードと卒業後にお笑いユニット、Good Neighborを結成。AT&TのCM出演も評判を呼び、SNL入りした。最初はカイルとのコンビ芸によるデジタル・ショートでしか露出がなかったが、後半からは生コントでも出番が増えてきた。芸風的にはジェイソン・セダイキスの後釜と言えるかも。

ベスト・パフォーマンス 赤ちゃんボス(写真、世界的企業のCEOだが身体は赤ちゃんのままの男)


カイル・ムーニー

ベネットの相方。1984年カリフォルニア生まれ。”華のない又吉”とでも呼びたいローテンションなキャラで異彩を放つ男。デジタル・ショートは出来不出来のムラが結構あったんだけど、イイ感じでハマったのも幾つかあった。来期の更なる精進を期待。

ベスト・パフォーマンス 「Chris For President」(生徒会長選挙に出馬したスラッカー高校生が作った選挙運動用ビデオという設定のスケッチ。やる気ゼロの顔で「校内でヒップホップを聴くのは禁止。でもロックはオッケー。」とか「他校に通学しているガールフレンドと一緒にいたいので学区を変更する」など実現不可能な公約をボソボソ語る。その合間には何故か自動車事故や逮捕シーンが挟みこまれる)


ブルックス・ウィーラン

2013年加入組。1986年アイオワ生まれ。アイオワ大卒業後にLAに向い、Upright Citizens Brigade Theatreで学ぶ傍らスタンダップ・コメディアンとして活動していた。トレッキングやスケートボード、そして中古レコードを愛する今どきのサブカル芸人なんだけど、今期は「Weekend Update」で何度かネタを披露しただけに留まったのが残念。ジョン・ミルハイザーとともに来期残留が怪しい人だが、もうちょい持ち味を出せるはず。

ベスト・パフォーマンス なし


ノエル・ウェルズ

1986年テキサス生まれ。ウェス・アンダーソンやオーウェン・ウィルソンが通っていたテキサス大オースティン校卒。その後LAのUpright Citizens Brigade Theatreでの活動を経て2013年にSNL入り。これまでにないタイプのサブカル系コメディエンヌなのだが、セシリー、エイディー、ケイトの三人の押しの強さに負けてあまり目立てず。使い方によってはバケると思うのでクビにならずに来期も出演してほしいものだ。

ベスト・パフォーマンス 『Girls』のパロディースケッチでのレナ・ダナム


参考:ノエル・ウェルズ鉄板のズーイー・デシャネルのモノマネ




ザシア・ザメイタ

2013年の”ケリー・ワシントン事件”(黒人女優のケリーがホストを務めた回に目新しいスケッチが量産されたことで改めて黒人女性キャストの必要性が語られるようになった)を機に急遽行われた追加オーディションで選ばれたラッキー・ガール。1986年インディアナ生まれ。ヴァージニア大学卒業後にニューヨークのUpright Citizens Brigade Theatreで活動。ミシェル・オバマやソランジュのモノマネをはじめ、音楽ネタでの歌唱要員としても活躍するなど既に番組に欠かせない戦力に。ジェイ・ファラオとのコンビ芸で来期も騒がせてくれそうだ。

ベスト・パフォーマンス 『28Reasons』(後述)


コリン・ジョスト

1982年ニューヨーク生まれ。名門ハーヴァード大の伝統あるお笑いサークル、ハーヴァード・ランプーンの部長を務め、2005年の卒業とともにSNLのライターに採用された生え抜き組。2012年にセス・マイヤーズとの連名でヘッドライターとなり、マイヤーズの卒業によって番組の舵取りを任されることになった。オフの日にスタンダップ・コメディアンとして精力的に活動していたことが認められて、2014年から「Weekend Update」のキャスター役でパフォーマーも兼ねることに。爽やかなルックスで早くも女子の高い支持を受けている彼だが、私生活ではやはりハーヴァード卒の女優ラシダ・ジョーンズと付き合っている。

ベスト・パフォーマンス 「Weekend Update」登場第一回(Twitter上での女子視聴者の反応がスゴかったので)

おまけ
マイケル・チェ

今期のSNLの台風の目となったライター。1983年ニューヨーク生まれ。ラガーディア高校卒業後、スタンダップ・コメディアンとして名を挙げ、今期のライターチームに迎えられた。SNLでは主にジェイ・ファラオ絡みのネタ作りに関与し、強烈な人種差別ネタを量産。批判する一般人とTwitterで論戦したりして話題を呼んだ。ただし『デイリー・ショー』にレギュラー出演が決まったため、SNLは今期のみで卒業。パフォーマーとして相当優れているそうなので、将来的にはレギュラーより出世するかも。というわけで彼の名前は覚えておいた方がいい。

ベスト・ネタ 『28 Reasons』



黒人キャスト「黒人を抱きしめなければいけない理由が28ある。1番目は我々にはその機会が必要だということ。で、2から28番目は奴隷制!」
白人キャスト「……」
黒人キャスト「それに対する返答は?!」
白人キャスト「ごめんなさい」
黒人キャスト「奴隷制!」
白人キャスト「ごめんなさい」
黒人キャスト「奴隷制!」
白人キャスト「ごめんなさい」